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夢追うひとびと
# 2
「何かをやろうと思えば、エネルギーって自然と湧いてくると思う」
萩原幸子さん(59歳)
東京都北区にあるティールーム『さち』は、美味しいお茶と手作りケーキで地元でも評判のお店。 このお店の魅力はお茶とケーキだけではなく、お客さまをいつも温かい笑顔で迎えてくれる 萩原さちさんの存在も大きいようです。今回は、33年間働き続けた会社を定年間近で退職し、 2004年に念願のティールーム『さち』をオープンした 萩原さんに、オープンの経緯や開店からこれまでの想いなどをお伺いしました。
萩原さちさん





-- 第二の人生のスタート
 2人の子供を育てながら33年間会社勤めを続けてきた萩原さんは、 できれば60歳の定年まで働き続けたいと考えていた。 しかしながら、走り続けてきた彼女の歩を止めさせたのは、 世に吹き荒れるリストラの嵐だった。
 「今まで一緒に働いていた人達が次々と新しい道を歩み始める現実を目の当たりにして、 私も本当にこのままでいいのだろうかと思い始めたんです」第2の人生。そのスタートを切るのであれば、 体力がある少しでも早い年齢から始めた方がいいのではないか・・・。この先の人生を思い、心の葛藤を抱えていた。
 「もともと好奇心は旺盛で、会社のデスクワークだけしてたのでは世間に置いてかれちゃうと思って、 陶芸とかお料理とか色んな習い事に通っていました。お料理教室に通っていた時に、 アンティーク食器に魅せられてしまって、それまでは和食中心だった料理まで“西洋”にはまってしまったんです。 料理の復習ということで自宅で作ったケーキをお友達に食べてもらっていたら、 『隠れ家的な感じでお店やってみたら?』って。人と関わることができて、 大好きなアンティーク食器を活かして何かできるなら、そんなのもいいかなぁって思ったんですよ」
 ちょうど身の回りでも、会社の移転で通勤が苦しくなったり、住んでいるマンションの改築があったり、 その他様々な条件がタイミング良く重なり、そんな状況に後押しされ、悩みながらも早期退職を決意する。 「自宅でやるんだから、ダメだったら閉めちゃえばいい」という思いが幾分心を軽くしてくれていた。
-- あるサロンとの出会い
 ともすれば、運良く様々な条件が重なった様にも見えてしまうが、 ティールームのオープンを考えたその裏ではもちろん不安もあり、 大きな勇気も必要だったという。
 「自宅で開いているサロンをいくつも見て回ったんですけど、 みんな人気が出て自宅を増築したり、人手が足りなくて家族が手伝っていたりと、 これはちょっと無理かなって思ったんです」
 のんびりとやっていきたいという萩原さんの思いとは裏腹な現実がそこにはあった。 しかし、ひとつのサロンとの出会いが契機となる。「そこは本当に普通の一軒家で、 6畳くらいのダイニングキッチンで1日2組だけランチをサービスしているようなところだったんです。 空間にもお料理にも飾り気はないけれど、有名シェフのいる有名レストランでは味わえない、 家庭的な温かさがあったんです。その時、これなら私でもできるかなぁと思えたんですね」 それからのさちさんは、今まで以上に必死になって料理を習い、オープンに向けて準備を進めていく。
 「やるって決めたら勢いついて、食器をどんどん買い集めたんですけど、もう金銭感覚が麻痺しちゃって。 買った後よく考えてみると、あぁ、“0”が一個多いんだなと思うなんてこともありました(笑)」 そして2004年9月1日、退職金を全部はたき、とうとうティールーム『さち』をオープンさせた。





-- ご主人の存在
 萩原さんが第2の人生を考える際、大きな影響を及ぼした人物としてご主人の存在がある。
 「夫はやりたいことがたくさんある人で、バレーボール、マラソン、水泳、ピアノ、アコーディオンなどなど、 やりたいことは何でもやるんです。そんな自由奔放に好きなことをやっている夫はすごくイキイキしていて、 それで私も一時期は、夫に合わせて青梅マラソンに挑戦したりしていました。 でも、やっぱりどこかで夫に気を使っている自分がいて、自分が本当に求めているものじゃないと思って 結局やめちゃったんです」
 次々とやりたいことを見付けて外に出て行ってしまうご主人に不満を抱く時期もあった。 しかし、“自分のやりたいことを精一杯楽しむ”ご主人を見ているうちに、夫に合わせるのではなく、 自分自身が本当にやりたいことを見付けて自立しなければ、との思いが強まっていった。
 「もちろん夫婦2人3脚で何かをやっていくこともありますが、自分にとって“これだ!”っていうものを見つけて 自立しないとダメだと思ったんです。そうじゃないと、本当に自分と向き合ったときに、 自分には何も残らないですし、仕事から離れた後淋しくて夫に角を向けてしまいそうで。 そんな老後は嫌だなって」  自分を強く持ったご主人だったからこそ、萩原さんも自分自身を見つめることができたのだろう。
-- 思いもよらないプレゼント
 訪れる人に癒しを与えられる空間にしたいと始まった『さち』だったが、箱を開けてみると口コミで広がった お客様から「ランチも食べたい」など、様々なご要望をいただくようになった。
 「私は全然そんな気は無くて、どうぞ持ち込んでください、お茶くらい出しますからって言ってたんです」
 しかし、お客様からのリクエストが止むことはなく、ランチを始めることになり、 ティールームの仕事は忙しくなっていく。さらに、訪れるお客様が繰り広げる様々な話に耳を傾けることが増え、 「何か的確なアドバイスをしなければいけないのじゃないかしら」と、次第に困惑していくようになってくる。 そして「こんなはずじゃなかったのに・・・」という思いと闘う日々が続いていた。
 それでも、話をしてくれるお客さんと接し続けているうちに 「あぁ、お店を開くということで『自分はこうあるべき』と、いつの間にか身構えていたんだなぁ、 そうじゃないんだ、飾る必要はないんだ、ありのままの私でいいんだって気付いて、 肩の力を抜くことができたんです」
 そうやって心の持ち方を切り替えていくと、お客様の帰り際の顔がだんだん明るくなっていくのが見えるようになり、 萩原さん自身の心も少しずつ解かれていた。
 「もともと人が好きで、人と接して生きていたいと思って開いた店なので、 こんな私にでも信頼を寄せて話をしてくれるということが、逆にありがたく思えるようになったんです」
 ティールームにやってくる人の様々な話を聞いていくうちに、自分自身も原点に立ち帰っていくことができた。 そして萩原さんは語る。
 「本当にお客様に育てられたと思います。それまではこうあるべき論みたいなのがあって生きてきたけれど、 色んな人生を知って、10人いれば10人の目線があるということを教えられましたね。 だから今はすごく感謝しています。私を信頼して足を運んでくれるお客様にできる限り何かを返していきたいです」
 萩原さんは自分で作った癒しの空間で接する人々から、思いもよらないプレゼントをもらっているようだ。 色んな思いを乗り越え、今は毎日が楽しいという。
 「私は甘く考えて始めちゃって、でも現実はそんなに甘いものではなかった。 それでも、頑張れたんです。何かをやろうと思えば、エネルギーって自然と湧いてくると思うんですよ。 誰にでも、別に大きなことじゃなくても、何かしらできることは必ずあると私は信じてます」
 そしてその先の夢は・・・。「65歳くらいまでこのティールームを続けて、 その先はまた何か新しいことを探そうと思ってます」第2の人生を踏み出し、ここまでやってきたという自信があるからこそ、 まだ見ぬ夢にも目を輝かせていた。
ティールーム さち

東京都北区神谷1-1-3-201
(東京メトロ・南北線「王子神谷」駅 出口3番から徒歩2分)

OPEN/ AM11:00〜PM6:00
定休日/ 日・月曜日

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